2012-04-23から1日間の記事一覧

以前、ユダヤ人と日本人のルーツは同じではないかと聞きました。本当なのでしょうか。

この見解のルーツは、東京文理科大学(現筑波大学)の学長も務めた佐伯好朗(1871〜1965)による、「太秦を論ず」という論文にあります。彼は中国景教(中国に伝来したネストリウス派キリスト教)の専門家で、昭和16年(1941)、同研究により東京帝国大学よ…

『古事記』『日本書紀』の両方に神話の部分が書いてあると思うのですが、神話の部分と人間の部分の区別はどのようにして分かったのでしょうか。神武天皇から実在と聞いているのですが…。

まず『古事記』『日本書紀』自体が、その構成において、神代と人代の区別を設けています。また両書は極めて政治的な傾向を持った書物で、大化改新以降の新しい記述にもさまざまな脚色、改変がなされていますので、中国や朝鮮半島の文献史料、考古資料等々と…

『古事記』と『日本書紀』の神話が似ているようで異なる、というのは、文章化される以前の口伝の段階での多様性に起因しているのでしょうか。

口伝段階での相違もありますが、両者の書物としての編纂方針に起因している部分もあります。『書紀』は、中国的史書の体裁に基づいて編纂された正史ですので、天地開闢の構成には、中国的世界観の基本である陰陽五行説が用いられています。陰陽和合のなかか…

縄文時代の詳しい地図など、どこかでみられないでしょうか?

入門的な意味では、中沢新一『アースダイバー』をお薦めします。現在の東京を縄文期の地形に基づいて読み解こうとする書物で、巻末に縄文の地図が折り込みで付いています。しかし、千葉などはカバーしていたかな? ほかに、自分の住む場所の過去の姿が知りた…

日本人のルーツについて興味があるのですが、お薦めのものがあれば紹介してください。

とりあえずは、篠田謙一『日本人になった祖先たち―DNAから解明するその多元的構造』(NHKブックス、2007年)でしょうか。発掘人骨のDNA分析に基づく成果で、やはり朝鮮半島や中国北部との共通性が強いものの、縄文では南方との繋がりも強く、日本列島で暮ら…

『日本書紀』や『古事記』は読んでみたいと思う反面、本当に読む価値があるのか気になっています。良書があればぜひ紹介してください。

古代史を考える際には基本史料でもありますし、以降の歴史にもずっと影響を与えてゆく文献です。大いに読む価値がありますので挑戦してください。ちょっと専門的に触れたければ、小学館の「新編日本古典文学全集」に注釈・現代語訳の施されたテキストがあり…

古代の自然環境と人間の関係について研究し、現代の環境政策なりに活かす仕事などはあるのでしょうか?

あるとすれば、やはり環境史にリンクした仕事でしょうね。大学の教員、博物館の学芸員などです。とくに、環境社会学や環境民俗学の分野では、かつての人々の暮らしから環境問題解決の糸口を探る、という作業が明確な意図をもって行われています。

なぜ異なる地域なのに、神話が似ているのでしょうか? それぞれの地域で交流があったのですか?

説明の仕方としては、大きく分けて伝播論と多元的発生論があります。前者は、ひとつの考え方が何らかのネットワークにより伝達したとするもの、後者は、類似の環境のもとでは類似の物語が発生しやすいと考えるものです。実際は、これらを組み合わせることに…

神話の段階からすでに兄妹婚はタブーなのですね。人間はいつからそれを禁止したのでしょうか?

インセスト・タブーと呼ばれるものですが、全世界的に認められる禁忌のひとつです。かつては、劣性遺伝により生物学的に忌避されたのだとか、エディプス・コンプレックスによって説明されたこともありましたが、現在では、女性の交換を促すための社会的規則…

納西族の神話において、納西族の祖先と同時に肉塊から化生するのが、なぜ猪と羊なのでしょうか。信仰対象として代表的なのですか?

猪と羊は、納西族にとっての主要な狩猟対象、牧畜対象です。猪は野生を代表する獣のひとつで、自然神である〈署〉という神格の持ちものです。羊は毛や肉を得るための家畜で、その骨は卜占にも使用されます。ヒトと猪と羊が兄弟であったとの設定で、もともと…

オオクニヌシの神話について、彼を初代の大王とみなす見解もあるのではないか?

神話に歴史の痕跡をみる方法は間違いではありませんが、『古事記』や『日本書紀』は極めて政治的な書物でもあり、そこに記されているのはヤマト王権の主観から語られる物語なので、扱いには充分な注意が必要です。『古事記』の特徴であるオオクニヌシ神話は…

先生の研究している環境史は、神話とはどのようにリンクするのでしょうか?

神話は、自然環境に対する説明形式としての一面を持っていますので、自然観や世界観の研究には欠かせないものです。前回お話しした納西族の神話と『古事記』神話の比較も、私の研究の一端です。

縄文時代には魚もよく食べられていたようですが、土器のモチーフなどに魚や貝が用いられていた話は聞きません。これらも信仰の対象になったのでしょうか?

次回おみせできるかも知れませんが、縄文土器には、サメやシャチなどをモチーフにした絵画も存在します。川や海にいる生き物のなかでも、より強力な存在に惹かれたようです。現在の狩猟採集民には、「動物の主」に関する信仰が色濃く残っていて、森林におけ…

昔の人って、例えば塩を摂らないと死んでしまうとか、なぜ分かったのでしょうか?

動物は、生きるために必要な栄養素は、概ね本能によって獲得しています。人間も基本はそれと同じですが、嗜好という文化的要素が著しく発達したため、栄養的にはまったく意味のないもの、もしくは逆に身体に悪いものまで、喜んで食べるようになってしまいま…

当時の縄文土器を利用した調理法など、遺物や遺跡から分かることはあるのでしょうか? / 縄文時代の網など、どんな素材で作っていたのでしょうか? /森林で弓矢が発達したというのは、かえって使いにくそうですが?

縄文時代の料理で一般によく知られているのは、植物質のクッキー(もしくはパン)ですね。これは、遺跡の竈などから、堅果類のデンプン質がクッキー状の炭化物として発見されるもので、東北から中部に至る広がりが認められます。アク抜きしたドングリや栗な…

弥生時代に戦争が始まりますが、共同作業で供給量も同じにする、というわけにはゆかなかったのでしょうか?

弥生時代の生業の中心となる稲作は、高度に組織化された分担作業が必要なため、それらを企画・運営・統率する人々、強力なリーダーの存在が不可欠となります。そのため、どうしても労働の量や質に格差が生じてしまい、それはそのまま供給量の格差になって現…

三内丸山遺跡などをみると、住居に大小の差があり、縄文時代の定説である「皆が平等」とは異なっているように思うのですが…。

三内丸山の分析・解釈もまだまだ議論があるところですが、それほど大きな社会的格差、階層差が存在したとは考えられていません。同遺跡の大小の住居規模は、居住している家族の人数に比例するもので、社会的位置を反映したものではないとするのが一般的見方…