2012-10-19から1日間の記事一覧

これまでの「世界史」が「歴史基礎」「地理基礎」に変わったとき、「日本史」には制度的な変化が生じるのでしょうか。

提案には、日本史関係のことは書かれていないようです。日本史教育を基軸に据えて、そこから関連するトピックを通じ、世界史を把握してゆこうという「歴史基礎」なのでしょう。しかし、それで充分な世界史教育ができるのか、疑問の点もあります。あくまで「…

「思考型の歴史教育」への転換が必要とのことですが、授業の進め方など、先生には何か具体案がありますか。

大学の史学科の演習でやっているようなことを、もう少し簡易に、分かりやすく行ってゆけばよいだろうと思います。例えば、史料演習。そこから成り立っている定説ではなく、史料から何が読みとれるかを一人ひとりが考えて、グループ学習などで討論、意見交換…

『旧約聖書』の楽園追放には、サタンは出てこないと思うのですが。

いやー、ご指摘ありがとうございました。以前、別の講義で西洋の蛇の象徴性も扱ったことがあるので、知ってはいるのですけどね。口がすべってしまうのですね。授業でも訂正しておきます。話の意図としては、西アジア周辺で蛇を再生の象徴と捉える思想が強固…

入鹿が殺されるとき、「王位に即くのは天の子であるべきです…」と天皇に語りますが、不思議です。どのような理由で傷つけられたか、入鹿は分からないはずではないでしょうか。

この文言自体、事実であるのかどうか不明です。『書紀』の文脈のとおりに読めば、暗殺者を率いているのが中大兄と知った入鹿が、皇極天皇によって誅殺されるのだと思い、これまでの「専横」を顧みて命乞いをした、と解釈できるでしょう。しかし、この『書紀…

「大化改新はなかった」との話も聞いたことがあるのですが、実際のところどうなのでしょうか?

乙巳の変のクーデターを契機とする中央集権化の改革がどこまで実現されたのかは、用語の点も含めて『書紀』に改竄があるようです。しかし、この時期に一種の政治改革が行われ、王権と一体化していた蘇我本宗家が排除されたことは、同時期に高句麗・百済・新…

『日本書紀』の歴史資料としての信憑性は、どの程度のものなのでしょうか。 / 『日本書紀』のなかには、「大化改新」のように疑わしい記述が他にもあるのでしょうか。

いわゆる「史実」が書かれていない文献には史料的価値がない、とするのは、形骸化した実証史学の悪しき考え方です。その時代に生み出されたものである以上、例えば「偽書」と呼ばれるものであっても、その史料にしか証明できない過去の事実を提供してくれま…

どの国にも、伝説交じりの「史実」は数多くあると思います。これを記す人たちは、どういった意図でこのような表現をするのでしょう。

伝説と史実を峻別する歴史観は、近世から近代にかけて成立してきた新しい歴史観であって、多く前近代においては、神話や伝承も歴史の一部を構成していたのです。東アジアでは、殷王朝の頃から王や王朝の出来事を文字で記録する作業が始まりますが、その任務…

ギリシア・ローマや中国に比べ、日本の歴史記述が出遅れたのはなぜなのでしょう。史料が残っていないだけなのか、「歴史」への認識が他地域より時間がかかったのか。そもそも「歴史」の捉え方自体が、近代のものと古代とでは、まったく異質のものなのかもしれませんが…。

そう、まさに異なる歴史観を持っていた、ということでしょうね。現在でも民族・民俗世界にままみられることですが、現在の我々のように何年何月に何があった、と逐次的・編年的な記録を必要とする社会は稀で、多くは起源(すなわち神話)と現在という点と点…

専門の研究者には、そんな狭いことばっかりしてどうするんだ、ということに没頭する人が多いと思います。そんな人に中高の歴史を教えさせるのはどうかと思うのですが。

どんな学問でもそうだと思うのですが、狭いこと、細かいことを蔑ろにすると、大きなことを構想すること自体ができません。よって、しっかり学問を修めた人であれば、小さなことのひとつひとつをなおざりにしないはずです。逆に、それらを無視して大きなこと…

先生はどのような経緯、理由で教員になったのでしょう。これから教員免許を取る予定なので、参考までに教えてください。

大学の教員と中高の教員とは資格も役割も異なりますので、参考にはならないのではないかな、と思います。大学教員の場合は、「教員になろう」と決意してなったという人は稀でしょう。学科の性質にもよりますが、大部分は研究者になろうとして修練を始め、そ…

完全に正しい日本史、歴史を知ることは不可能なのですか。

不可能です。まず、世界中で常に起きている出来事を瞬時に記録し、その複雑な因果関係を整理し、文章化するという作業自体が、人間にはなしえないことです。よって、歴史学の営みは常に不完全であり、しかしそれゆえに、多くの人間が関わり、終わりなく追究…

史学科でない人間が歴史を批判的に検証しようとするなら、そのための資料はどのように集めればよいでしょうか。また、「本当はこうなんじゃないか」と思ったとしても、論文を書くわけでないなら、そう思うことにどのような意味があるのでしょうか。

歴史には社会的な機能があります。現在生じている様々な個人的、地域的、国家的、国際的問題は、すべて過去からの時間の流れのなかで、種々の事象が複雑に絡まり合って生じてきたものです。よって、解決の鍵、少なくともその前提は、常に歴史のなかにありま…

先生は、批判的な目で歴史をみることが重要だといいました。確かにぼくもそう思いますが、それよりも未来に活かすことができるよう、歴史を教えることの方が重要だと思います。

未来について考えることは、歴史学の重要な役割のひとつです。ただし、過去を批判的にみることと、歴史を過去に活かすこととは、二者択一でどちらの方が大切、といった秤にかけることはできません。どちらも大事なのです。なぜなら、例えば国家によって歪め…