2014-05-16から1日間の記事一覧
やはり、歴史学者でもありフロイト研究者でもある、ピーター・ゲイの一連の著作をお薦めします。まずは、『歴史学と精神分析―フロイトの方法的有効性―』(岩波書店、1995年)でしょうか。個人の主観的構築物にすぎない歴史叙述が全人的価値を持ちうるのはな…
初期のフロイトは、無意識の欲動を性に基づくもの=エロスとのみ考えていましたが、後期にはその逆のベクトル、死の欲動=タナトスも存在するとの結論に至ります。第一次世界大戦から帰還した兵士たちを治療していたフロイトは、彼らの語る悪夢から、夢を無…
成長過程で誰しもが一度は経験することでしょうが、自己に対する防衛意識が過度に働いている点は否めないかもしれません。自尊心と自負が傷つけられ、自分にとっての世界や価値観が根底から崩されることを忌避するという防衛機制ですね。例えば学問の世界で…
この問題は、むしろエディプス・コンプレックスの枠組みのなかで対象化されています。つまり、異性の親との一体化を求める子供の行為は、同性の親からの去勢恐喝=虐待を呼び起こし、結果として同性の親へのアンビバレンツな感情を喚起し構築してゆくという…
細かな相違点を挙げればきりがないでしょうが、最も対照的な点は、やはりユングが無意識を集合的に捉えているのに対し、フロイトはあくまで個人心理の成長過程において把握していることでしょう。ユングは集合的無意識下にある〈元型〉が人間の心理を規定付…
異性の親への一体化欲求や同性の親への愛憎も無意識の欲動の発現ですが、この経験と克服の過程で、その性愛を抑制しようとする心理機制や罪悪感が醸成され、道徳感・倫理感の中核を形作ってゆくと考えられています。その過程においては種々の葛藤が生じ、場…
グリム童話とは、本来はグリム兄弟がドイツで収集し整理した民話・伝説の類を、子供が読むおとぎ話として改変したものです(そのプロセスについては批判もあるので、ジャック・サイプス『おとぎ話の社会史』〈新曜社、2001年〉など参照)。彼らの調査・研究…
ダンテのような優れた芸術家といえど、時代や社会の規制から完全に自由ではありえません。彼の創作活動は、彼がその成長過程において学んできた種々の知識、経験に基づいて構築されたものです。よって、『神曲』に描かれた世界は、当時の時代・社会の産物で…
広範囲に及ぶ同一の自然現象が生じた場合、それに関わる神話が多くの地域で語られ出すことはあります。日蝕を表象した太陽の消失する話、皆既日蝕に基づく有翼日輪の普及などはその一例でしょう。また、洪水による世界の滅亡と人類の再生を描いた洪水神話も…
「蛇」は説明しやすいですね。蛇は、その脱皮をするという性質や低湿地に棲息するという生態から、前近代社会においては多く〈不老不死〉や〈死と再生〉の象徴、あるいは水の神などと捉えられています。とくに前者の性格は重要で、神話的世界においては、多…
とにかく、文化が構築されるうえで、植生が衣食住全般の基盤になるからですね。衣服はもともと樹木・草木の繊維から作られますし、食事においては根菜・野菜・木の実など、やはりその植生に基づく食べ物が提供されます。住空間が、樹木をその建材として用い…
カミという名称で呼ぶかどうかは別として、何らかの超越的な概念は、確かになくならないかもしれません。というのは、人間がこの世界で生存してゆくために、自己を正当化する、あるいは防衛する材料・手段としてそれが必要になってくるからです。とくに、例…
子供に付与される時点での父親の名前をシニフィアン/シニフィエに分けて考えてみますと、シニフィアンには例えばドナルドという音声記号、シニフィエには父親の風采・言動・生涯など、ドナルドを定義づける種々の意味内容が相当します。このような「名前」…
梅原氏は、以前同じ雑誌に書いたことがありますが、先行研究に関する彼の不勉強さと、思い込みの強さはよく知っています。「神話はすべて政治的なもの」というのは、彼が国家レベルの神話、すなわち権力によって文章として残されたものしか対象にしていない…