2019-01-01から1年間の記事一覧
中国への仏教伝来ですが、確かにまず、〈現実主義〉的なところからその受容が始まっています。例えば、六朝初期の士大夫ら知識人の間には、〈清談〉と呼ばれる文化がありました。儒教から老荘思想に至る種々の思想、思考の論理を用いて、高度な哲学的会話を…
まさにそうですね。卜占や呪術の類は、中国戦国の頃からクライアントとの交渉が行われ、求める方向、霊験などが模索されてゆきます。よって、卜占書の凶事の項目をみれば、当時の人びとが何を不安に思っていたのか分かりますし、吉事の項目をみれば、何を望…
「諸国山川掟」については、果たして全国的な開発抑制策であったのか、淀川水系の治水目的に限定されるものではないか、との指摘がなされています。しかし、明らかにこれを受け継ぐ(授業でも触れた)貞享の禁令や、伐採禁令・土砂流出抑止策が諸藩から打ち…
熊野に限らず、寺院や神社の境内あるいは所領は、神仏を荘厳する道具立てとして、寺社が自らの用途に用いる以外、許可なく伐採することは禁じられていました。それらは神霊の宿るところである、無理に伐採すれば神仏の罰が降る、といった説明もなされてきた…
ひとつ重要な著作として、 アルフレッド・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ—忘れられたパンデミック—』(西村秀一訳、みすず書房、2004年〈原著1989〉)があります。いわゆるスペイン風邪(スパニッシュ・インフルエンザ)の大流行をアメリカからの視点…
概ね、個人所有ではなく入会地(共同体所有)です。共同体所有の土地と環境問題について考えた有名な概念に、ギャレット・ハーディンの〈コモンズ(共有地)の悲劇〉があります。どういう考え方かというと、例えば、複数の共同体成員が牛を放牧している牧草…
この問題は、単に政治や社会、経済の問題としてのみ捉えるのではなく、ヒト以外の生命をどのように考えるのか、われわれは彼らとどのような関係を取り結んでゆくべきなのかという、倫理の問題でもあります。ぼくは仏教者でもありますので、あらゆる生命に優…
すべてがそうだ、とはいえませんが、ナショナリズム的側面を持ちうることは確かです。1990年代の後半に、オーストラリア大学の日本史研究者テッサ・モーリス=スズキが、〈エコ・ナショナリズム〉という言葉で、現代日本の自然観の一端を表現しました。彼女…
ひとつには、教科書編集における保守性が原因でしょう。環境史という領域が、学界において一定の地位を得たのはそう古いことではなく、またその視点を援用すると、政治史や国家史の知見、社会史や思想史の知見にさまざまな変更を迫る事態が生じます。授業で…
はい、もう何度かお話ししたことがあるような気がしますので、こちらとこちらに関係の回答を掲示しておきますから、まずは該当ページをご参照ください。基本的には、国家のような統合的政体ではなく、集団の規模を第一次産業の地産地消が可能な範囲に縮小し…
釈迦が摩耶夫人の脇から生まれてくるという神話は、女性の腋下、もしくは服の袖口が生殖器の暗喩と捉えられていたことともに、女性蔑視に基づく生殖器忌避が関わるという、矛盾した情況から生み出されてきました。また、出産によって母親を苦しませない、と…
まず前提として、掲載されている類書に対する信頼性があります。歴代の『華林遍略』『修文殿御覧』『芸文類聚』『太平広記』『太平御覧』などは、王朝の正史と同様、王朝の威信を賭けた国家的事業として、あるいは勅を奉じ、唐代を代表する(場合によっては…
仏教説話については、確かにそういうパターンが多いかもしれませんね。仏教ではそもそも、復讐はまやかしの現実に束縛されている煩悩=執着に過ぎず、それに振り回されている限りは悪業をなす、もしくは悪業を振りまく結果にしかならないので、仏教的には必…
討債鬼、索債鬼の「債」とは、説話を読めば明らかなように〈負債〉のことです。よって厳密には、前世の負債を決済しなかった借り手に対し、貸し主が〈不具〉の子供になって生まれ、前世で取り立てられなかった分を今生で奪い取ろうとする存在をいいます。前…
モノをアクターと考える場合は、そのモノが他のモノ、動植物、人間などとの関係においてみせる動き、そうと認識される動きは、あくまで関係のなかで捉えられることを重視してください。これはモノだけではないのですが、あらゆるアクターのあらゆる動きは、…
いわゆるクリティカル・リーディングを意識せよ、ということだと考えて下さい。大学で実践する学問、とくに社会科学系や人文科学系の学問においては、クリティカル・リーディングは基本です。研究文献や史資料に書かれていることを鵜呑みにするのではなく、…
アクターとして、本来多様な性質を持っているところを、人間が一定の目的のためだけに使用すべく、その他の要素をすべて排除してしまうのが〈素材化〉です。それは物理的な面でも、あるいは精神的、心性に関わる面でも生じえます。その結果が、確かに人間に…
とても重要な質問だと思います。歴史叙述の根幹に関わるような問題ですね。実は、東アジアにおける歴史叙述は、その根幹に、卜占的な未来予測の要素を含んでいます。それはすなわち、中国古代、殷王朝に開始される甲骨卜辞です。もともとは狩猟採集段階にお…
もちろん、天皇の存在が日本律令国家には不可欠ですので、そもそも厩戸王という「王族」が聖人のモデルに選択されたのは、天皇を中心とする中央集権体制が構想されたことと関係します。しかし、実在の厩戸王が、蘇我氏と連携しながら仏教興隆に貢献したこと…
まず第一に口頭伝承ですね。今日授業でお話ししたとおり、歴史学研究者には、文字記録よりも口頭伝承を曖昧、もしくは不確かなものだと考えている節がありますが、歴史実践をめぐる人類学研究では、何十代も前に遡る首長の系譜と活動を、淀みなく物語ってゆ…
なるほど、興味深い質問です。異常出生譚、いわゆる生まれ方が異常な例は、例えば聖徳太子(厩戸王)や行基など、通常の人間としてのありようが、史実として確認できる存在にも用いられます。太子は馬屋の前で難なく生まれ、生まれながらにして聡明で言葉を…
例えば中国ひとつをとっても、龍や蛇に対する言及は無数に存在しますので、どこに視点を置いてみるかによって異なる様相を呈してきます。しかし概していうならば、蛇と龍の相違は上位神霊か下位神霊か、ということになるでしょう。例えば道教では、龍は水と…
ぼくの話し方が悪かったかもしれませんが、日光感精の例を挙げたのは、自然物から感精して王を生む、英雄を生むというパターンの1例としてです。そのうえで幾つか付け足しておきたいのですが、まず、古代から現在に至るまでの時間のなかで、天照大神が男性…
ああ、その観点はありませんでした。恐らく、そういうことになると思います。どこかで言及しましたが、『易経』には「積善の家には余慶あり、不積善の家には余殃あり」との一文があって、儒教の家の論理を体現するものとしてよく引用されます。仏教の因果応…
そうですね、授業でも紹介したジン・ワン氏などは、そうした見方をしています。現代からみると異なる要素が一体になっている論理について、かつてレヴィ=ブリュールは〈融即の論理〉と呼称し、それが作用している心性を〈原始心性〉と名付けました。すなわ…
授業で紹介したチベット、あるいはその周辺地域での水葬については、やはり下流地域との軋轢もあって、現在はあまり行われていません。チベットでは出産に関わる限られた埋葬法でしたが、しかしインドのガンジス川のように、何から何まで「流して」しまうの…
授業をよく聞いてください。まず、今回の調査について、ぼくはすべてを肯定して語った覚えは一度もありません。以前に4月の調査について少しお話をして、前回は、11月の調査でそのときの情報がかなり修正された、とお話をしました。すなわち、文献を読むと…
Loyolaの画面 レポート課題を、以上のようにLoyolaに入力しました。何度かお話しした、素材化(material/aization)の問題です。次回の授業にて詳しく説明します。なお評価に際しては、以下のポイントを重視します。a)テーマ、問題意識のオリジナリティb)…
授業でもお話ししましたが、『日本書紀』は、大化改新以降に構築されてゆく、大王家中心の古代国家の価値観で書かれています。大化改新の始まりを告げる乙巳の変のクーデターでは、蘇我本宗家の蝦夷・入鹿父子が、大王家の中大兄皇子・中臣鎌足によって滅ぼ…
レジュメの書きようが拙かったと思います。「禹蔵図」が淵源なのではなく、新石器時代黄河流域の亀甲容器(安徽省含山凌家灘遺跡出土の玉亀・玉板など)に始まり、殷代の卜甲、「洛書」、式盤に至る卜占のツールの系譜上に位置づけられるものである、という…