日本史概説 I(10春)

今、塾で漢文を教えているのですが、講義のなかで出てきた「和(倭)習」とは具体的にどのようなものですか。

『日本書紀』編纂論の一般への水準を示す森博達『日本書紀の謎を解く』(中公新書)によると、例えば「憂」や「愁」といった漢字はヤマト言葉ではともに「うれふ」と読み、同じような意味・用法で用いてしまいますが、漢文では異なる意味・用法を持っていま…

講義でよく扱われる伝記について、亡くなった人の経歴や性格など詳しく書いていますが、どうしてそのような情報を知りえたのでしょう。

律令制では、基本的に、功績のある家々の伝記が式部省に集められ、編集・保管されることになっていました(職員令式部省条)。また、時折朝廷から臨時に命令が出され、家々の歴史が提出される場合もあったようです。それらが編纂官によってまとめられ、国史…

『日本書紀』のような書物は企画者本人が書いたのですか?下級官人の叙述した可能性はないのですか?

国史の編纂は、通常は律令制官司の図書寮などが担っていたほか、臨時に撰国史所などの専当官司が設置され統括する場合もありました。それらは四等官制を基本に官僚を従えていますので、いわゆるトップの名の知られた人々だけが記述をしていたわけではないだ…

仏教が他の宗教に比して圧倒的に経典の数が多いのはなぜでしょうか。 / 仏教の経典には建築学や論理学について書かれたものもあるそうですが、どのようにしてそれだけ様々な学問知識が集まったのですか?

聖典の編纂のあり方はキリスト教の場合とも似ていますが、まず釈迦が語った言葉はその時点では記述されず、弟子集団のなかで伝聞の形で受け継がれていました。しかし、十大弟子の1人とされる摩訶迦葉の呼びかけによって第一次の編集会議=第一結集が行われ…

林業を否定するなら、天台宗では寺院も建設できないのではないでしょうか。 / 例えば薬草を薬に使ったとしても、殺生の罪業になるのでしょうか。 / 黒縄地獄幅の道具をみると、杣ばかりか大工や番匠まで卑しい存在とされていたようです。律令制下でも建築官司はあるわけですし、後の職業観を考えてみてもそうは断言できないように思うのですが…。

宗教というのは都合よくできていますので、樹木の殺害を罪業と捉えつつも、寺院建設を許容する仕組みはきちんと出来ています。これについては中国から、山神が進んで樹木を造寺のために提供したり、樹木が自から建設の場に集合したりする説話が残っています…

天台宗で草木発心修行成仏論が生まれたのはなぜでしょうか。

なぜ天台なのか…ということは、まだはっきり説明できていません。個人的には、比叡山周辺での樹木伐採に原因するのではないかと考えています。平安京を維持するための伐木は、周辺の山々にかなりの負担をかけていました。桂川や賀茂川は頻繁に洪水を引き起こ…

草木発心修行成仏論とは、草木が人間と同じ地位にあるということになるのでしょうか。

そうですね。華厳宗や天台宗では、主体である自分自身と客体である環境世界は相即不二の関係にあると考えるため、一方が悟りを開いて成仏すればもう一方も仏になる、一方の仏教の理法が作用しているなら、もう一方にも同じように仏が遍満しているということ…

太初暦について。律管の容積で作られた81という分母は、実際には不正確な数値だったのではないでしょうか。西洋では早くから天空を重視し観測していたはずですが、東洋はより身近なものへ関心を向けたということでしょうか。

現在の1ヶ月は29.53059日ですが、太初暦は29.53086日、その前に使用していた四分暦では29.53085日でした。四分暦の方がやや現在値に近いので太初暦の方が誤差は大きくなりますが、もちろん運用に支障をきたすほど不正確であったというわけではありません(…

あたかも兵書を読みさえすれば仙術の力が手に入れられる、といった考えが歴史が下るほど強くなるように思います。修行などの描写が減ってゆくことには、やはり宗教が深く関わっているのでしょうか。

とくに太公望に仮託された『六韜』、その系統の『三略』に関しては、太公望や張良自身が神仙に擬されることの多いこともあって、次第にマジカル・アイテムのような位置づけになってゆきます。すなわち、もはや内容を読まなくとも持っているだけで特殊な力が…

武田信玄の「風林火山」も『孫子』の影響ですよね。

日本の兵書受容は『孫子』が中心、というのが一般的理解ですが、実はどうもそうではないようです。古代から江戸期までの兵書写本・刊本を調査すると、圧倒的に多いのは太公望に仮託された『六韜』、その系統に属する『三略』で、『孫子』が重視されてくるの…

兵陰陽の話は面白いですが、現実には役に立たないのではないでしょうか。役に立ったという話はあるのですか?

陰陽・五行説は世界を説明する科学の基本中の基本でしたので、あらゆるものが五行によって説明できると考えられていました。もちろん、すでに戦国時代末期から批判もありましたが、一般には長く価値を保っていました。恐らく兵陰陽の論理で勝利すればよし、…

中国の「黄巾」「赤眉」の乱も五行と関連しているのですか。

もちろんそうです。黄巾の乱については「蒼天已に死す、黄天まさに立つべし」というスローガンが有名ですが、一般には、火徳(前漢末の劉向により提唱)の後漢王朝に代わり土徳の太平道が天命を受けるという発想と考えられています。しかし、蒼天を後漢のこ…

陰陽五行説について詳しく知りたいのですが、お薦めの本はありますか。 / 兵陰陽でレポートを書きたいのですが、どんな本を読めばいいですか。

陰陽五行説については、専門的な難しい本、そしていい加減なアヤシイ本がたくさんあるかと思いますが、日本の陰陽道の成立も学べて便利なのが下の2冊です。著者は2人とも陰陽道の専門家なので、内容にも信頼が置けます。陰陽道 呪術と鬼神の世界 (講談社選…

纏足にみえる「女性の行動の制限」「美意識」の感覚は、平安期日本の貴族女性における異様なほど長い髪、重量のある十二単などに通じるところがあるようです。両者に何か関連はあるのでしょうか。

直接的な関連性はないでしょうが、美意識や女性への拘束という意味では類似しているところもあります。習俗の社会的機能という点では共通していますが、纏足は直接的な身体加工を伴うものなので、「身体」を考える意識に相違があるといえるかも知れません。

閻魔は仏なのですか、神なのですか、それとも妖怪なのですか。

呼び方が難しいですが、「神」としておいていいでしょう。インドにも早くから冥界の観念はあり、そこに住む刑罰の神閻摩(ヤマ)天が、護法善神の観点から取り込まれのが閻魔王です。いわゆる十王も、中国の代表的冥界である泰山の泰山府君をはじめ、仏教東…