『もののけ姫』のラストシーンをハッピーエンドと捉えてしまうのは、アニミズム的心性に規制されているからだというお話でしたが、それでは海外ではどのような評価があったのでしょうか。

 ご存知のように、『もののけ姫』はディズニーの配給によって海外でも公開されました。残念ながら、その詳細な情況はちゃんと把握していないのですが、自然と人間との戦いの構図は、ヨーロッパなどでの方がすんなりと受け入れられたと語るインタビューを観たことがあります。アニミズム的心性という部分では、私は、日本とヨーロッパにそれほど大きな相違があるとは考えていません。古典古代の地中海周辺はもちろん、ガリアもゲルマニアも元来は多神教世界でしたし、キリスト教が普及して以降も、それらが完全に払拭されたわけではありませんでした。例えば、異端審問を受けた農民の語りのなかに、ユーラシア全土に広がるシャーマニズム文化の儀礼体系が隠れていることは、カルロ・ギンズブルグが『ベナンダンティ』『闇の歴史』などのなかで証明しています。問題はその時点から現代に至る歴史認識や責任感のありようでしょう。