猪神の長老乙事主は、海を渡ってきたように描かれていたかと思います。昔の日本には、外来の神々をも受け入れる素地があったのでしょうか。

 それは明らかに存在しました。いわゆる神道的な神のなかにも、古代に大陸や半島から渡ってきて日本で祀られるようになった神がたくさんいます。神仏習合が前提となっている中世・近世世界では、その傾向はさらに顕著で、西域やインドを出自とする神様も多く出てきます。日本古来の神のありようとして捉えられている祟り神(『もののけ姫』のそれではありません)も、中国古代の殷王朝を起点に、卜占の文化のなかで成長した災害の神が古代に輸入されたものです。北原糸子編『日本災害史』(吉川弘文館)に掲載の拙稿で詳しく論じていますので参照してください。