日本における霊界訪問譚にはどのような事例があるのでしょうか。イザナミ・イザナキの黄泉国神話などもその一例でしょうか。

 もちろん、黄泉国神話は、文献で知りうる最も古い事例のひとつでしょうね。神話でいえば、他に、オホクニヌシの根国訪問、ホホデミの海神宮訪問も該当します。もうひとつ最初期のものとしては、『書紀』雄略天皇紀に一部が載り、『万葉集』、『丹後国風土記逸文に全体をみることができる、浦嶋子の伝承が挙げられますね。いうまでもなく昔話「浦島太郎」の原型ですが、神仙思想的な、蓬莱山への訪問譚となっています。平安初期の仏教説話集『日本霊異記』にも、冥界を訪れて奇異な体験をした後に再生するというパターンの物語が、複数収められています。