『捜神記』に水神としての牛が出てきましたが、日本では、地獄の牛頭や牛鬼など恐ろしい存在がある一方、八坂神社の牛頭天王のように祭られる存在もあるようです。これは日本人の心性とどのような関係があるのでしょうか。

地獄の獄卒としての牛頭は、やはり中国から伝わったものです。現実世界では人間に酷使されていた牛馬が、逆に人間を責め立てるという逆転の構図が孕まれています。牛鬼は、水神としての牛の災禍をなす面が強調された姿でしょう。牛頭天王は、元来はインドの祇園精舎の守護神ですが、日本では天災を呼ぶスサノヲ、疫病をもたらす武塔神などと習合し、疫神/除疫神の両義性を持つ御霊の一種としての八坂神社に祀られました。一概に善悪で分けられないのが日本の神のありようで、適当な方法で祭祀されれば加護を施し、そうでなければ災禍をもたらすことになるのです。よって、日本人が牛に他と異なる特徴的心性を持っているということではないようですが、日常生活のなかで酷使される牛への同情など、広くアジア世界を覆っている認識は共通して認められるようです。