樹木を伐ると洪水が起きるという経験則を中心とした物語はあるのでしょうか。

近代には分かりやすい事例が幾つもあります。私の作成した『環境と心性の文化史』の伐採抵抗伝承集成にもかなりの事例を集めましたが、笹本正治さんの『蛇抜・異人・木霊―歴史災害と伝承―』が、この問題に関する重要な著作です。「蛇抜」とは、鉄砲水を大蛇が通り抜けるものとして表象した言葉です。同書は、大正12年に木曽で起きた鉄砲水災害が「蛇抜」と表象された過程を、天保期の災害や伝統的災害観との関連から明らかにしています。ぜひ一読を。