日本では、柳は幽霊とともに出てくるイメージがありますが、それはいつごろ形成されたものなのでしょう?

近世の絵画世界で成立するものと考えていいでしょうが、その背景には様々な心性の反映があります。ひとつは講義でも扱った、東アジア全域に及ぶような女性と柳との関わり、別れの象徴であること(死と結びつきやすい)。もうひとつは川の問題。柳は川の付近に自生することの多い植物で、また人工的に河川の両側へ柳の並木が作られることもあります。大木の秘密でも触れましたが、河川は山と同様に神の存在が実感されてきた場所で、それは樹霊にも結びついてゆきます。また、近年のオカルティズムでは、よく「霊は水を好むので、川には心霊が集まってくる」などといった言説をみかけます。これも川と神とを結びつけてきた信仰の残滓(あるいは再構成)でしょう。深夜の川などは真っ暗で不安感をかき立てられるものですが、前近代の人々には、その傍らに生えて揺れている柳に神霊の姿が実感されたのでしょう。