陰陽道と狐というと、私はやはり安倍晴明を連想するのですが、彼は藤原氏とも関わりが深かったそうですし、その出生に狐が関わっているのも何か関係があるのでしょうか。
安倍晴明が狐の子であるという話は、謡曲や浄瑠璃、歌舞伎の〈信太妻〉において語られます。原型となる人間と狐の異類婚姻譚は『霊異記』上2に確認できますが、それが晴明の出生と結びつくためには幾つかの段階が必要なようです。講義でも扱った鎌足の鎌を狐が届けるエピソードですが、「中臣祓」を吉備真備が唐から持ち帰ったという伝承が成立するなかで、(時代が混乱していますが)鎌を届けた狐こそ真備であったという言説も誕生します。唐で真備を助ける鬼霊=阿倍仲麻呂は晴明の祖先にも当たるわけですし、陰陽道の祖は真備であるとの言説も関係するでしょう。あるいは、『江談抄』で真備を顕彰したことが確認でき、『狐媚記』も著している大江匡房こそ、狐と晴明を結びつけた張本人かも知れません。