世界各地で黄泉国神話に類似の物語が存在するのは、単なる偶然とは思えないのですが。

こうしたミッシング・リンクは、歴史上至るところに存在するものです。学問的な考え方としては、同じような環境・条件下では類似の思考・言説が発生するとみるか、どこかひとつの場所からの伝播とみるかの二通りがあります。二者択一というより、複合的に考えるべき選択肢ですが、とくに後者など、きちんと実証を伴わないとトンデモ学説になってしまいます。しかし、近年は伝播論でも多くの優れた研究が出始めています。西洋史では、シャーマニズムの視点からサバトを解読したギンズブルグの『闇の歴史』、アーサー王伝説における運搬者としてのスキタイに注目したマルカー『アーサー王伝説の起源』、仏教的神格がインド→西域→中国→日本と変貌してゆくさまを捉えた弥永信美『大黒天変相』『観音変容譚』などが注目されます。氷河期にタイ南方に形成され温暖化とともに海底に没したスンダランドが、アジア民族の故郷であり、アジア文化の類同性はこの地からの人類の移動にあるという見解も出てきています。これからの展開に目が離せません。