冥府に関する神話の比較で、「後ろをみてはいけない」というタブーが共通するのはなぜでしょう。
話型のモチーフとしては、「見るなの禁」と呼ばれています。これはひとつ冥界神話に限らず、他界や、そこからやって来る異人との交渉譚にはよく付随するタブーです。他界は現実世界と異なる秩序で成り立っているため、両者が平和的に交渉するためには幾つかの約束ごとが必要となり、もしそれを反古にしてしまうと破局が訪れることになります。いわゆる「鶴女房(鶴の恩返し)」譚、「雪女房(雪女)」譚も、人間が異人と交渉する典型的な物語ですが(異類婚姻譚)、それぞれには「機を織っているところをみてはいけない」「子供に乳を与えているところをみてはないけない」といったタブーが課せられます。これも「見るなの禁」で、本質的には黄泉国神話のタブーと同じものなんですね。