日本的中華思想によって生み出された〈異民族〉は、蝦夷と隼人だけですか。熊襲は違うのでしょうか。 / 差別化されているはずの隼人に、なぜ四神を連想させる名前が付いているのでしょう。

熊襲や南島の人々も服属民として扱われますが、蝦夷や隼人のような特別な位置づけは与えられていません。実質的に夷狄を持たない日本では、この2グループが象徴的に扱われたのでしょう。例えば、出雲国造ヤマト王権への服属を誓う「出雲国造神賀詞奏上」なる儀礼が、天皇の代替わりごとに行われています。これは元来王権の支配下にある諸国すべてが課せられるべきものなのでしょうが、高天の原に対する葦原中津国の代表として出雲が位置づけられているのでしょう。蝦夷・隼人もそれと同じです。ちなみに隼人は、例えば行幸時に露払いの辟邪をなす「狗吠」を課されるなど、一定の呪術力を持った存在とみられていました。このマジカルな力は、文明化に反比例するものと認識されていたようで、ここに夷狄でありながら天皇の守護を期待される特別な地位が成立します。朱雀の名を持つのも、「南方からやって来て王権を守護する」ことに由来するのでしょう。