寺院が祖先祭祀の機能を持ったことは分かりました。しかし寺院の中心は、舎利の埋納されている塔から金堂へと変わってゆくはずですが、それは祖先崇拝の考え方が弱まっていったことを意味するのでしょうか。
必ずしもそうとはいえません。仏塔が釈迦の古墳と考えられたにしても、そこにおける信仰対象は自身の氏族の祖先ではなく、その来世的幸福を保証してくれる仏教的神格です。仏教を取り入れた時点で、まず祖先祭祀から祖先供養への変質が起こっているのであり、それに比べ、仏塔から伽藍への重点の移動は大きな問題ではありません。古墳は首長霊継承祭祀の場であるとともに、首長の自然祭祀を象徴するジオラマを配するなど、首長のあらゆる宗教的権威を標榜・喧伝する機能を持っていました。金堂は、後に神社となってゆく祭場に相当する施設でしょう。やはり、伽藍全体で古墳の役割を継承していることになります。