震畏四知、秉去三惑 / 孫康映雪、車胤聚蛍

【レジュメの訂正点(主要なもの)】
・幾つかの点で、誤字・返り点の脱落等がありますが、ケアレスミスの範囲です。
・「 為中常侍樊豊所一レ譖而卒」(レジュメp.2-l.18)……「 為中常侍樊豊譖而卒」と返り点を振って、「常侍樊豊が為に譖せられて卒す」と訓じる手もあります。
・「 譖讒殷也」(レジュメp.2-l.19)……「 殷」ではなく「毀」、コワスの意味です。ゆえに書き下しは、「譖とは讒毀なり」となります。
【注意すべき漢文訓読のスキル】
・中国の地名の読みに苦労していたようでしたが、基本的に音読みすれば大丈夫です。
【テーマについて】……『蒙求』には、官僚の理想的なありようを描いたエピソードが頻出します。前にも書きましたが、それは国家・王権が求めたものでもあり、官僚制度が正常に運営されるために必要な倫理でもありました。清廉潔白な素行や官僚どうしの友情は史書列伝や志人小説の類にもよくみられ、『万葉集』段階の日本にもよく知られていたことが確かめられます。しかし、官僚制度が動き出したばかりの古代日本では、この種の話は実感をもって捉えきれなかったようです。やはり、儒教の普及とともに官僚社会が一定の成熟に達した江戸期こそ、『蒙求』が本当の意味で求められた時代だったのでしょう。「蛍雪の功」で有名な「孫康映雪、車胤聚蛍」も同様ですが、こちらはむしろ、身分制度が緩和された近代日本の〈立身出世イデオロギー〉として効力を発揮したと考えられます。卒業式で「蛍の光」を唱う小学校・中学校は激減したかと思いますが、少なくとも高度経済成長期まで、その威力と説得力は持続していたのです。
……それにしても、「震畏四知」はいい話です。他人に厳しく自分に甘い昨今の風潮のなかで、常に自戒としてもっておきたい態度ですね。学生の皆さんにも、心の深いところで受けとめてほしい逸話です。