植物を食べることも殺生なのに、なぜ動物を殺すのに比べ残酷さが薄れるのでしょう。血が出ないからでしょうか。

やはり人間の感受性や想像力は、生物としてのヒトとどれだけ近いかを基準として働くのだと思います。もちろん動物と植物とでは生物体としてかなりの差違がありますから、例えば動物の四肢を切断することと、植物の枝を落とすことを同列には論じられません。しかし同時に、枝落としを痛みと感じる力を、現在のほとんどの人間が持ち合わせていないことも間違いありません。しかし前近代には少なからずそういった意識があったようで、ある樹木の枝を落としたことで祟りに遇い、病気になったといった伝承が多く語られています。また、神木や巨樹が伐採に抵抗したという神話・伝承が全世界に広く存在し、そのなかには、幹に斧を当てたところ血が噴き出したというモチーフが多く語られています。前近代の人間たちには、「樹木の身になって考える」ことが不可能ではなかったようです。