日本は様々に信仰の姿を変えてゆきますが、それは日本が宗教を持っていなかったことと関係するのでしょうか。仏教やキリスト教といった信仰があれば、宗教的なものの見方はあまり変わらないのでしょうか。
日本だけではなく、長い歴史のなかでは、ヨーロッパだって大きく信仰の様相を変えてきているのです。キリスト教が普及した後も、庶民層には深くアニミズム的なものが根づいていましたから、それに沿った祭祀や年中行事が行われ、逆にキリスト教の文化を変容させてきました。中世から近世にかけての異端審問の研究では、キリスト教がサバトと呼び悪魔崇拝と決めつけた一連の文化は、実はユーラシア全般に広がるシャーマニズムの一様相だったことが明らかになっています。例えば、いわゆる「シンデレラ」の伝説はヨーロッパから中国にまで分布しますが、あの物語に現れる夜の舞踏会は、もともと精霊たちの集う深夜の饗宴のことを指していたようです。一面的にみえる創唱宗教のもとでも、民衆の信仰文化は常に変動し続けているのです。在地の信仰を常に取り入れて拡大してゆく仏教では、キリスト教以上に変質が激しく、同じ仏教でも、インド、西域、東アジアではずいぶん異なる様相を呈するに至っています。