『書紀』と『古事記』について、紀/記とわざわざ違う字を用いるのはなぜなのでしょうか。

日本書紀』は編年体の書物とよく定義されますが、各巻は概ね歴代天皇の一代記になっていて、紀伝体の様式も備えています。紀伝体こそが中国正史のあり方なので、「紀」という名称を用いているわけです。一方の『古事記』は、フルコトフミというヤマト言葉に、適当な漢字をあてたものだと考えられます。まさに、古い物語を書き記した書物ということです。中国にも「記」の付いた書物はあり(志怪小説の『捜神記』など。志怪小説も、隋代までは史書に分類されていました)、史書の形式の一種ではあるのですが、「紀」と比較するとより大らかな枠組みを持ったものです。『古事記』も内容に即した書名といえるでしょう。