太子が10人の話を1度に聞き分けたというエピソードですが、これは10人の話を順々に聞き、きちんと記憶して的確な助言をした、記憶力に優れていたという意味だと習ったことがあります。

確かにそうした見解はあります。最近の石井公成さんの研究でも(本年11月に日本道教学会で報告されたばかり)、典拠のひとつに『大品般若経』とその注釈『大智度論』にある「是菩薩用天耳淨過於人耳。聞十方諸佛説法、如所聞不失」との一文を挙げ、聖徳太子の「勿失」は「あやまちたまはず」と訓まれてきたが「忘失せず」と解釈すべきではと述べられています。いずれにしろ、優れた能力を賞揚して聖人的イメージを創出しようとしたことは確かでしょう。