日本にも狼トーテムはあるのでしょうか。あるとすれば、どのような機能を果たしたのでしょう。

日本では、狼トーテムの実例をみたことがありません。歴代の王権・政府が米を税として制度化した結果、日本は世界でもいびつなほど米食に偏った農耕文化が構築されてしまいました。山林や海辺の世界には、それらとは異なる文化形態も存在したはずですが、アイヌなど一部を除いて、近世〜近代の間に尽く失われてしまったのです。ゆえに日本には、ヨーロッパにも根強く残っている人狼変身譚がみられません。狼が人間に化けるという昔話、伝承はあるのですが、概ね漢籍の物語を翻案したものであることが確かめられています。里山礼賛のなかで美徳のようにいわれている稲作文化が、実は自然と人間との豊かな関わりを破壊し単一化してきたことが分かるでしょう。