狼に育てられた少女の話がありましたが、あれは実話でしょうか。それとも、狼の知恵を示すためのフィクションですか?

どうなんでしょうねえ。この話題に関しては、公表者であるジョセフ・シング牧師の報告の真偽をめぐって、現在に至るまで議論が繰り返されてきました。最近でも、鈴木光太郎『オオカミ少女はいなかった―心理学の神話をめぐる冒険―』(新曜社、2008年)が、証拠写真の捏造をはじめとしてかなり「全否定」的な批判を行っています。牧師の報告に一定度のフィクションが含まれていたことは疑いないでしょう。しかし、それらは「人間は先天的に人間であるわけではなく、生育環境に応じて後天的に人間性を獲得する」ことを立証するエピソードとして語られてきたのであって、狼の頭の良さを喧伝するためではなかったと思われます。ただし、上記を説明するうえでなぜ「狼に育てられた」という言説が持ち出されたのかについては、一考の余地がありそうです。