三峰神社に参詣したとき、参道で父が「帰り道に振り返ったら狼に食われてしまうよ」と云っていたのを思い出しました。「見るなの禁」は日本の黄泉国神話にも、ギリシアのオルフェウス神話にも認められますが、山もそうした他界の一種なのでしょうか。

まさに山は他界で、『万葉集』では、死者が山に帰ってゆく姿を歌ったものもあります。『古事記』の黄泉国神話は地下、あるいは洞窟のなかという印象が強いですが、イザナキが逃げてくるくだりなど、山上古墳群の参道を反映したものではないかとの説もあります。前近代に暮らした人々は、最も身近な神の世界を山にみていたようです。