翻案された中国の物語を通じて、中国語の語句や表現が日本へ定着することはあったのでしょうか。
前々回の授業で「汝」の話をしましたが、もちろん翻案以外でも、日本の熟語の大部分は中国の書物から輸入されたものです。物語で面白いのは、例えば「縊鬼」という幽霊の話。これは清代の怪異小説『子不語』『閲微堂筆記』などに出てくる首吊り者の幽霊なのですが、生きている者に取り憑いて首吊りをさせるという弊害がある。この話が幕末から明治にかけての日本に輸入され、『夜窓鬼談』などの日本の怪談話集にも収録されてゆく。なかには、上智大学とニューオータニの間にある喰違見付で「縊鬼」が出たという話(実話として幕末期の随筆に出てくる)もあって、中国の怪談なのだという自覚も何もなく、日本の幽霊・妖怪として語られるようになってゆきます。