以前あるマンガで、妖怪がとある人間の女性と結婚したいと思い、その人を攫っていったような話を読みました。人間と妖怪が結婚する話などは存在したのですか?

もちろんあります。妖怪との異類婚姻譚を理解するためには、まずは「妖怪」という概念の範囲を決めなければなりませんが、例えば中国東晋の『捜神記』(4世紀後半)には、猿のような化け物が人間の女性を掠って子供を産ませる話が出て来ます。『古事記』のヤマタノヲロチ神話の原型となるような龍蛇退治の物語も、やはり中国の志怪小説にみることができます。前者については後日講義でも詳しく触れますが、漢民族が江南地域の少数民族カリカチュアライズしたもの、後者は自然の脅威を表象したものと解釈できますが、いずれも「妖怪」の範疇に入れうるものです。日本にも蛇神や猿神、アマノジャクなどとの婚姻譚が残っていますが、いずれも動物の主神話や自然神への供犠にまつわる物語が変質したものとみられます。