男性の神格に女性が供犠される、あるいは神婚の相手となる事例は多いようですが、その逆はなかったのでしょうか。

少ないながらもありました。最も典型的なのは「橋姫」です。たまたま通りかかった男性が供犠されようとした話など、血なまぐさい物語が多く残っています。山神にも女性の神格がみられ、祭祀の日に彼女を喜ばせるため、男性が裸で山中を走るなどの行事が行われたようです。昔話の「雪女」はそんな山の女神をモチーフにした物語で、「山の神の祭祀の日は山で狩猟や伐採を行ってはならない」という禁忌を破った老人と若者が、その祟りに曝されるという内容になっています。山姥なども同様の存在と考えられるでしょうが、深夜の山中で牛方が山姥に襲われる昔話など、やはり供犠の痕跡を伝えているのかも知れません。