ヲロチの話で川上から箸が流れてきますが、これも何か霊的な力があるのですか。

ヲロチの物語の文脈においては「上流で人が生活している」ことを意味しますが、ハシにはそれなりに象徴的な意味があります。ヤマト言葉では、内/外の接する境界的事物をハシと呼ぶ傾向があるようです。川にかかるハシ(橋)、隅や縁辺を意味するハシ(端)、そして何かを抓むハシ(箸)…すなわちこれらは境界的な存在です。ゆえにヲロチ神話に登場するハシは、スサノヲのいる高天の原的世界=内と、葦原中津国=外とを接続する意味が付されているのかも知れません。また、川上から何かが流れてくるというモチーフは、日本では神の顕現に使われることが多くあります。例えば、『山背国風土記逸文賀茂社縁起では、賀茂氏の娘玉依毘売が川上から下ってきた丹塗矢を持ち帰り、床辺に置いていたことで神の子を身籠もります。丹塗矢こそ神の顕現であるわけで、この枠組みは、後に昔話の「桃太郎」や「花咲か爺」にも受け継がれてゆきます。ヲロチ神話にみられる「流れ下る箸」にも、我々には想像もできない象徴的意味が付されているのかも分かりません。