藤原麻呂邸から出土した呪符木簡についてですが、蛇が疫鬼を食べるということには何か根拠があるのでしょうか。また、「不流水」には何か意味があるのでしょうか。

これは中国の『千金翼方』という医学書に記述がある呪法なのですが、恐らく何らかの道教経典などに神話的裏付けを持つものでしょう。道教では六朝期、あらゆる精霊、神的存在を「鬼」という概念で把握する試みが生じ、これをコントロールすることで疫病や災害を防ぐ呪法が展開してゆきます。例えば『太上洞淵神呪経』という経典では、疫病をもちたらす鬼を道の権威を背景に脅迫する内容が出てきます。上記の呪符木簡も、同じような思想的背景を持つものでしょう。一般的には、南山に準えられた吉野に住む蛇に疫鬼の退治を願うものとされていますが、文面からいって、「早く退散しないと蛇に喰わせるぞ」という疫鬼への脅しであると考えた方がよいようです。