狩猟の思想的背景は重要と思います。最近の『ザ・コーヴ』も、どのような背景で行っているものなのか、ちゃんと考えて映画を撮ってほしいと思います。
もちろんそうですが、そこにはいろいろ難しい問題が隠れています。文化相対主義、すなわちあらゆる文化にはそれぞれ独自の価値があり、その間に優劣はないという見方からすれば、太地町のイルカ漁も捕鯨も尊重されるべきでしょう。しかし、伝統的なものがすべてよいというわけでは決してない。私たちは現代社会を生きているのですから、現代においては何が問題なのか、何が解決されねばならないのかはちゃんと議論しなければならないでしょう。もちろん、現代の価値観を無理に押し付けて断罪するというのは問題ですが、イルカ漁も、かつての伝統がそのまま継承されているわけでは決してないのです(漁師たちも現代人なのですから)。かつてイルカ猟がどのような理由から行われ、現在まで持続しているのか。現在ではいかなる価値を見出されて続行されているのか。そのあたりを、それこそ歴史学的に解明しなければ議論になりません。『ザ・コーヴ』は思想的にも手法的にも問題の多い映画ですが、上記のことがらを考える契機を与えてくれたという意味で重要です。