今、塾で漢文を教えているのですが、講義のなかで出てきた「和(倭)習」とは具体的にどのようなものですか。

日本書紀』編纂論の一般への水準を示す森博達『日本書紀の謎を解く』(中公新書)によると、例えば「憂」や「愁」といった漢字はヤマト言葉ではともに「うれふ」と読み、同じような意味・用法で用いてしまいますが、漢文では異なる意味・用法を持っています。「憂」は「心を痛めてものごとを気遣う」意味で自動詞・他動詞双方に用いますが、「愁」は「ものさびしい」意味で他動詞には使いません。この2字を『書紀』では併用してしまっている箇所があり、倭訓に基づいて誤用した結果だと考えているわけです。森さんはこのような倭習の事例をさまざまに検索して、『書紀』の巻ごとの編纂時期や、その叙述者が中国人であったか日本人であったかなど、さまざまな考察を行っています。