今回みせていただいた九相図はすべて女性の死体のものでしたが、男性の死体を描いたものはないのでしょうか。生前の美しさ重視か、あるいは蔑視か、どのような理由で女性のものが多いのでしょう。

確かに、日本に残っているものはほとんど女性を対象にした図柄となっています。むしろ、私は男性の九相図はみたことがありません。講義では少々口が滑ってしまいましたが、『往生要集』では、九相観の対象となる人体を「愛するところの男女」としていますので、性別的な差異は設けていません。『往生要集』がもとにした、『摩訶止観』や『大般若経』なども同じです。しかし、講義で紹介した僧伝が多く女性からの誘惑を死想観で打破することを説き、九相図が女性ばかりを対象にして腐乱のさまを描いていることは、やはり「男性の視点」の問題を考えざるをえません。女性の信者獲得を狙ったものではないかとの見解もありますが、女性の身体をみる目線自体が男性のものであることは疑いないと思われます。