古代の神話が、後の昔話等々に影響を与えている事例は、桃太郎や三枚のお札の他にもあるのでしょうか? また、何かよい参考文献があったら教えてください。

結局、神話はさまざまなモチーフを変換して複数の物語を構築してゆきますので、世界中でよく似たモチーフを用いていたり、同じような内容の物語が語られる場合が出てきます。それらは、拡大と変質を繰り返しつつ特定の地域で伝承されていったり、書承の形で受け継がれ、どこかの段階で再び口承化したりします。その営みのなかで、古代神話と類似した伝承が生み出されることになります。例えば、『日本書紀雄略天皇22年7月条や『丹後国風土記』の逸文には、瑞江浦嶋子の物語が採録されています。いうまでもなく、昔話「浦島太郎」の原型ですが、いわゆる竜宮として語られるのはまさに桃花源的神仙境の蓬莱であり、乙姫に当たる人物は亀自身の化身=亀比売として登場してきます。中国の神仙伝奇を直輸入したような物語ですが、これが、時代を追って日本の社会・環境に適合的に変質してゆくのです。
神話と昔話、民間伝承との関係については、小松和彦氏の一連の著作が刺激的です。『神々の精神史』『異人論』『護法信仰論』など、みな文庫になっていますので探してみてください。浦嶋については、三舟隆之『浦島太郎の日本史』(吉川弘文館、2009年)が、古代から現代までの「浦島太郎」の変遷を扱っています。