高井田3-6号の壁画は、去ってゆく夫へ手を振る女性と解釈されているとのことでしたが、その頃から「手を振る」しぐさは見送りなどの動作として定着していたのでしょうか。

重要な質問ですね。上代の文献などをみていると、別れの際に「比礼(呪具としての布)を振る」という動作が出てきます。これは、幸福を招き寄せたり、逆に邪気を祓ったり、魂を呼び戻したりする所作と考えられていますが、『万葉集』にみえる恋人などへの挨拶「袖振る」は、ここに由来するものではないかと思われます。「袖振る」は、現在我々の行う「手を振る」と同じように用いますので、古墳後期にも同様の身体技法があったとみてよいでしょう。