先生は「桃源郷」を「桃源境」と書かれていましたが、何か特別な意味はあるのですか。また、桃太郎の原型はお婆さんが桃を食べて若返り、健康な男子を生むとの話だったと「日本教育史」で習いました。神仙思想との関わりはどうなのでしょうか。 / イザナキが黄泉の国から逃げ帰ってくる『古事記』の黄泉国神話でも、桃が活躍します。やはり神仙思想の影響なのでしょうか。

まず「桃源境」についてですが、「境」には場所の意味がありますが、「辺境」という言葉からも分かるように、周縁という意味があります。「郷」はサトですが、「境」と書くと現実の周縁部にある他界、との印象が強くなります。また桃太郎ですが、お婆さんが桃を食べる回春型はひとつのパターンに過ぎません。英雄的な赤児が何らかの入れ物に入れられて川上から下ってくるというモチーフは、それ以前からも広く用いられる物語の形式のひとつです。日本では、神が川上から下ってくる話がありますし、中国ではその根源は桃花源とされています。
黄泉国神話の桃も、神仙思想の影響ですね。中国では古く戦国時代から、桃が辟邪(魔除け)のために使われていたことが、同時代の竹簡史料や『礼記』などの文献から判明しています。黄泉国神話でも、桃は、黄泉からイザナキを追ってきた黄泉醜女などの悪霊撃退に使われますので、同じ用途ですね。