どの国でも、猫に首紐を付けなかったのだなあ…と不思議に思いました。

実は、『信貴山縁起絵巻』や『石山寺縁起絵巻』に描かれている猫は、首紐を付けている、いわゆる紐飼をされているんですよね。『枕草子』89「なまめかしきもの」にも、「いとをかしげなる猫の、赤き首綱に白き札付けて」と出てきますし、『源氏物語』若菜上にも、逃げる猫の首紐が御簾に引っかかり、柏木が女三宮の姿を目撃するというエピソードがあります。恐らくは、家猫が限られていた古代の習慣として始まったものが(繋がないとどこへゆくか分からない)、農家において鼠除けのために飼われるようになる近世頃から、その役割を果たさせるために放し飼いに変わっていったのでしょう。しかし宮廷などで飼育されている場合は、未だ紐飼もありえたのではないかと思います。江戸期の『猫のさうし』に、慶長7年(1602)、洛中へ猫の綱を解くよう命令があったとの記載がみえます。