オオクニヌシの神話について、彼を初代の大王とみなす見解もあるのではないか?

神話に歴史の痕跡をみる方法は間違いではありませんが、『古事記』や『日本書紀』は極めて政治的な書物でもあり、そこに記されているのはヤマト王権の主観から語られる物語なので、扱いには充分な注意が必要です。『古事記』の特徴であるオオクニヌシ神話は、幾つかの異なる神に関するエピソードを、祭政一致の指導者の誕生を物語るひとまとまりの英雄譚に構築しているものです。そこからは、出雲に君臨する原初の王の姿が想像されますが、古墳時代の出雲には、それに相当する巨大な政治勢力が築かれていた痕跡はありません。また、『書紀』や『古事記』などを丁寧に検討してゆくと、かつてヤマト王権が宗教的に重視していたのは紀伊だったものの、5〜6世紀に外港が紀水門から難波へ移ったことを契機に、紀伊から出雲へと位置づけしなおされたことがみえてきます。オオクニヌシ神話は、国譲りにより天神勢力の支配を正当化するため、それから後に構築されたもののようです。