『古事記』と『日本書紀』の神話が似ているようで異なる、というのは、文章化される以前の口伝の段階での多様性に起因しているのでしょうか。

口伝段階での相違もありますが、両者の書物としての編纂方針に起因している部分もあります。『書紀』は、中国的史書の体裁に基づいて編纂された正史ですので、天地開闢の構成には、中国的世界観の基本である陰陽五行説が用いられています。陰陽和合のなかから天地や神々が誕生してくるというもので、『淮南子』や『三五歴記』といった漢籍の記述を援用して書かれているのです。一方の『古事記』は内廷的な内容で、パンテオンである高天の原の存在など、よりプリミティヴな描き方をしています。恐らく、素材となった資料にはかなり共通するものがあったのでしょうが、編纂方針やその方法論によって、微妙に食い違う結果に至ったのでしょう。