日本では性信仰が強かったようですが、例えば『聖書』では創世記に「裸が恥ずかしい」という記述があります。日本で性的なものがタブーとされたのはいつなのでしょうか。

古代日本は、中国儒教の礼の秩序を採り入れて、6〜7世紀から様々な風俗改正を行ってゆきます。しかし、その浸透は上層階級に限定され、一般の人々は長く奔放な性への信仰を保持していたと思われます。古代の文献史料にも、時折、都市や村落で流行した過激な宗教を禁止する話題が現れますが、その熱狂のなかには、必ずといっていいほど性に関するモチーフが隠れています。平安京では外部から侵入してくる疫神を撃退するため、四隅や辻衢で境界祭祀が行われますが、その主神には、性器を備えた男女一対神が据えられていました。こうした性格は、近現代まで生き残ってゆく道祖神の造型にも受け継がれ、性器を誇張した姿や、男女の抱き合う姿をみることができます。現在の我々のような性道徳が一般的になるのは近代以降でしょうが、しかしいまでも、日本の性への禁忌意識は、ヨーロッパ等々に比べて非常に脆弱だと思いますね。