イザナキ・イザナミについて。日本人の神観念のなかには、大地は神が生んだものだという発想があったのですね。日本以外にも、こうした考え方はあったのでしょうか。また、イザナミは蛇神だとの説がありますが、それは正しいのでしょうか。

例えばお隣の中国には、古い創世神話のひとつとして、やはり世界を神が生み出したとするものがあります。主人公は伏羲・女媧という夫婦神で、上半身が人間、下半身は蛇の姿をしていました。漢代に現れる両神の図像では、彼らは手にコンパスや定規を持ち、尾はお互いに絡ませ合った姿で描かれています。尾の絡まりは蛇の交尾を模したもので、世界は、再生の象徴たる蛇によって生み出されたと考えられているわけです。講義の2回目でも少し触れたように、この伏羲・女媧は、イザナキ・イザナミの原型ともいえる面を持っています。現在日本に残っている史料だけからではイザナミを蛇神とみることはできませんが、その深層には蛇神の性格が存在するといえるかも知れません。ちなみに、伊勢神宮のアマテラスは、中世には蛇体とする見方も存在しました。蛇と女神との結びつきは、時代による位置づけの相違こそあれ、ある意味で宿命的なものなのかも分かりません。