水の祭祀における権力者の権威と、死生観との関わりとは何なのでしょうか。

湧水点祭祀・導水祭祀自体が、古墳時代の権力者の死生観と関わっているわけではありません。ただし、水田の豊穣を保証する水が、死者の世界とも密接に関わっていたことは指摘できます。例えば、以前に海上他界観を反映していると説明した、装飾古墳の死者を運ぶ船の壁画ですが、講義でも紹介した奈良県巣山古墳の周濠からは、まさに棺を運んだと考えられる舟形木製品の残骸が出土しているのです。周濠に造り出しを設け、水の祭祀のジオラマを作成している点からすれば、これを単にゴミの投棄場としたわけではないでしょう。また、7〜8世紀に形成される大祓の祝詞には、罪や穢れが川の水を経由して海へと運ばれ、最終的に根の国でどこかへ消えてしまうというストーリーが語られます。古代人にとって死者の世界は生命の根源の世界と重複しており(まさに死と再生)、水はそこに至る媒介と考えられていたのではないでしょうか。