スサノオがヤマタノオロチを退治したということになっていますが、蛇は再生能力の象徴だと考えられていたはずです。にもかかわらず、悪神として殺されてしまってよかったのでしょうか。 / どうしてオロチの尾から剣が出てきたのでしょう。斐伊川周辺の情況と関係があるのでしょうか? / ヤマタノオロチ伝説が飛鳥時代に生まれたとするなら、『古事記』などに出てくる様々な神々は、すべてこの時代に誕生したといえるのでしょうか。それとも、物語の時系列やその他のエピソード、キャラクターなどは様々な時代に誕生し、後にひとつのストーリー

古事記』や『書紀』に収録された神話については、いただいた質問のとおり、成立した時代や地域も異にするエピソード群が、7〜8世紀にかけて成文化され、改変・編集されたとみるべきです。例えば『古事記』神話に特徴的なオオクニヌシの物語など、彼が幾つもの名前を持つのは、そもそもが異なる神々の物語の寄せ集めだからだと考えることができます。ところでヤマタノオロチ神話ですが、これは、かつて斐伊川に直接捧げていた祭祀のありようが、スサノオという人文的神格を介して川の力をコントロールする形式へ転換した、その事実を反映したものと解釈できます。直接奉祀する対象が、オロチからスサノオへ変わったのです。ゆえに、神話としては「スサノオによるオロチ退治」になっていますが、事実上は、スサノオに対するオロチの従属」を表現しており、オロチ(=斐伊川の神格化自体)は死んでいないのです。また、オロチの尾から剣が出現したのは、斐伊川上流域での製鉄活動が関係するとともに、斐伊川祭祀において最重要の祭器(オロチの依代?)となったのがこの剣であったためと思われます。それがスサノオの手に渡り、最終的にアマテラスに献上されてゆくのは、まさに祭祀の転換を体現するものといえるでしょう。