この時代の人々の服装は、麻のみで作られていたのでしょうか。『万葉集』には絹について言及があるので、すでに絹も伝来していたと考えていいのでしょうか。また、その生産が一般化するのはいつになってからでしょうか。

伝承としては、渡来人たちによってもたらされ生産が本格化したといわれていますが、恐らくは事実でしょう。中心的役割を担ったのは、新羅系の渡来氏族秦氏です。彼らは広汎な殖産興業を担いましたが、養蚕と絹の生産はその中核をなしていました。その後律令制では、各戸に桑を植えさせて養蚕を奨励し、調として絹・あしぎぬ・糸・綿などの繊維製品を課していました。庶民の衣服の素材は麻が普通でしたが、王族や貴族は、諸国から貢上された絹を身につけていたわけです。ただし、需要の拡大や高級志向のなかで、やがて原料は中国からの輸入白糸に依存するようになり、この傾向は江戸期に至るまで続きました。