全世界における民話の類似性は、他地域多発性か一箇所からの伝播で説明される聞いたのですが、先生はどちら派でしょうか。 / 自然環境がまったく異なる国や地域でも、同一の物語は成り立つと思いますか。 / 類似の話が発見できたとき、それが並列的なものか、伝播によって生じたものか、どうして区別できるのですか。

実際は、どちらか二者択一で議論するより、両方の要素が作用していると考えた方がよいようです。また、テクストを子細に検討することによって、どちらの要因が濃厚かはある程度判断できます。同じようにみえる話でも、そのテーマや構造だけが類似しているに過ぎないのか、登場人物をはじめストーリーの形式が同一なのか、前者であれば他地域多発もありえますが、後者ならば概ね伝播によるものです。しかし、もうひとつ重要な考え方として、同一のモチーフを異なる文化で表現した結果だ、という見方もあります。例えばシンデレラの物語などは、ヨーロッパにも、ユーラシア北方にも、中国にもみることができます。イタリアの歴史学者カルロ・ギンズブルグは、これをユーラシアに共通するシャーマニズムの慣習、儀式を物語化したものだと考察しています。すなわち、精霊たちの集う夜の会合というモチーフが、一方ではキリスト教的にサバトと表現され、一方ではお城の舞踏会になってゆく。これなどは、同一の物語が異なる環境で発現した事例ですね。