以前にある先生から、「今の日本史の定説へ反論を述べると、右翼的な保護者から猛烈な嫌がらせ受ける危険性があるから覚悟しろ」といわれました。これも、専門家と社会の間に議論を設けることで、解決できるものなのでしょうか。そもそも、二者の間に議論を設けるにはどうすればよいでしょうか。

例えば、「つくる会」系の教科書については、歴史学者と教育学者が作るさまざまなネットワークが、書籍を作ったり、シンポジウムを開いたりして批判をしています。彼らの主張は論理的には破綻しているのですが、その目的は歴史的事実や論理性を超越したところにありますので、「のれんに腕押し」状態になる恐れもあり、なかなか難しいことも確かです。しかし、同僚の教員や一般の保護者たちは概ね「良識派」ですので、嫌がらせは嫌がらせとして退けることが可能でしょう。問題は行政や学校自体が「そちら側」に与してしまう場合で、大変に残念なことですが、少数ながらもありうるケースなのです。昨年、上智大学史学会では、これらの問題に関連するシンポジウムを開催し、その報告要旨・討論要旨は、先日発刊された『上智史学』57号に掲載されています。皆さんの先輩である中高の教員がどのように現場で戦っているか、歴史学者たちがどのような実践をしているかも紹介されています。とくに上記のようなケースについて、ジェンダー史研究者の服藤早苗さんが、杉並区におけるつくる会系教科書との戦いについて語ってくださっていますので、ぜひ参考にしてください。