〈動物の主〉神話は日本にもあるのでしょうか? / 海外では、例えば『聖書』にしても契約を必要とするものが多いですが、日本にも契約を重視した神話や物語はあるのでしょうか。

いろいろありますねえ。これからの授業で紹介してゆこうと思いますが、皆さんがいちばんよく知っているのは、「鶴の恩返し」でしょう。いわゆる「鶴女房」として昔話に多くみられます。厳密にいうと、生業的な狩猟に関わる「活きた」動物の主神話ではなく、それが物語の形式として流布した結果、生み出されてきたものの可能性もあります。しかし、鶴が罠にかかったところを助けられる点(前近代には鶴も狩猟の対象でした)、人間に姿を変えて主人公と結婚する点、「姿をみない」という契約が履行されている限り富をもたらす点、契約の破棄により動物の世界へ帰って行ってしまう点など、主神話の基本的要素を備えています。鶴が織る織物は、自分の羽を抜いて作ったものですので、「肉をもたらす」こととも共通していますね。