トンプソン・インディアンの話は、獣姦の抑止などとは関係がないのでしょうか。

獣姦の問題については、確かにこれをタブーとする文化は広汎に存在します。しかしこれは、タブーを設けることで人間/動物の峻別を図ろうとしたもので、必ずしも抑制が必要なほどそうした行為が流行したわけではなかった、とみられています。むしろ例示したインディアンの話は、精霊の世界にいたあらゆる山羊の女性と関係を持ちますので、抑止というより解放の表現となってしまっています。婚姻はあくまで象徴的な表現であり、特定の獣と同族関係を結ぶことで自らの集団を卓越化したり、他の集団との区別を図ったり、あるいは授業でもお話ししたように過度の狩猟圧をかけないよう心理的規制を作り出す、といった機能が主要なものであったと思われます。