熊の遺体にくわえさせていた花矢には、何か特別な意味があるのでしょうか。

花矢(ヘペレアイ)は、精霊の世界へ帰る熊へのお土産だと説明されます。鏃が取り外された矢先にはイナウの飾りが付いていますので、射られても身体に刺さることはありません。イオマンテの祭儀中では、仔熊を広場で遊ばせている間に、古老たちによって次々と射かけられます。それなりの勢いがあって当たると痛いので、仔熊は興奮して怒りますが、花矢の本当の機能は、まさにそのようなところにあるのでしょう。「送り」は、建前的な意味では、何らかの超越的神格に生け贄を捧げるという「供犠」ではありません。しかし、熊を祭儀のために殺して解体する以上、そこには供犠的な要素も内包されることになります。供儀では、神は生命力溢れる生け贄を喜ぶため、これを残酷な方法で殺すのが普通です。花矢で熊を怒らせるのは、そうした「エネルギーの活性化」が、そもそもの意味であったと考えられます。