私の父は、家の近くに小さな畑を借りて野菜を作っています。殺虫剤や除草剤はほとんど使わず、代わりに虫が嫌う植物を植えたりして、なるべく野菜が害を受けないようにしています。それでも、虫の命を奪っていることになるのでしょうか。

人間が、自分の身に合うだけの食べ物を作る農耕が、自然に対する圧力の最も少ない営為だと思います。しかし農耕は、どんなに小規模なものでも、必ず自然環境を改変します。その善し悪しはともかく、同じ作物を同じ場所で作り続けていれば、肥料を加えなければ地味が痩せてゆきますし、肥料を加えれば土地の化学組成が変質します(もちろん、肥料の性質にもよります)。植生も影響を受け、周囲とは異なる植物が生えるようになり、より来る虫なども変わってきます。流通経済が関係する大規模な農耕になれば、農薬等々を使わざるをえない場合もありますし、農業共同体の取り決めに従わなければ立ち行かない場合もあります。ある人が農家の一部の田畑を借り、そこで農薬を使用しない有機農法を実践しようとしても、周囲の理解が得られなければ許可がおりません(例えば、農薬を使用せずにそこで虫が大発生してしまったり、病気が蔓延してしまったりした場合、周囲の田畑への影響が避けられなくなるからです)。近年、農業のあり方もどんどん変わってきており、できるだけ環境圧の少ない農法が採られていますが、解決困難な問題も未だたくさんあるのです。