熊送りのような祭儀は、他の動物に対しても行われたのでしょうか? / 虫送りは、どのように行われる祭儀なのでしょうか。

はい、アイヌの世界では、狼送りやフクロウ送りもあります。しかし、鹿や鮭などは送りの対象となっていないようで、やはり生命へのランク付けは存在するようです。しかし、送りは極めて広い文化事象であり、人間の葬儀も送りの一種です。事実、中国少数民族で主に唱えられる葬儀の際の祭文=『指路経』は、死者に精霊の世界への戻り方を示唆するものですが、イオマンテの祈り言葉に近い内容を持っています。本州の文化で行われる、道具に対する筆供養なども送りといえるでしょう。なお、虫に関わる「送り」の祭儀には、虫送りと虫供養があります。前者は、害虫を駆除するため初夏に行う祓系統の祭儀で、疫病神などを象った藁人形に害虫を括り付けて村外へ運び出し、川などへ流します。後者は、殺害した虫を文字通り供養するための秋の祭儀です。両者は表面的には対立するもののようにみえますが、内実はイオマンテなどと同様の送りで、人間が生きるために損なわねばならない生命を精霊の世界、魂の原郷に送り返す祭儀であるといえるでしょう。前者はそれが神祇信仰的、神道的に整備され年中行事となったもの、後者は仏教の殺生禁断思想との関係で年中行事化したものと思われます。